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仙台高等裁判所 昭和46年(行コ)3号 判決

控訴人

守善勝

右訴訟代理人

小野寺照東

外一名

被控訴人

宮城県警察本部長

広山紫朗

右指定代理人

清水信雄

外六名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人は第一種大型及び普通車の運転免許を有しているが、被控訴人は昭和四三年九月二五日控訴人に対し同年一〇月一日から同年一一月一九日まで五〇日間の運転免許停止処分(以下、本件処分という。)をしたこと、右停止の期間は、控訴人が宮城県公安委員会が実施した講習を受けたので、同年一〇月二五日までの二五日間に短縮されたこと、本件処分は、控訴人が昭和四二年七月二一日午後七時一〇分頃普通貨物自動車を運転し、仙台市沖野字中河原四一番地先の交通整理の行なわれていない交差点を五ツ谷方面から飯田方面に向い左折進行したとき、対向してきた小林政信運転の自動二輪車と衝突して起こした交通事故を理由とするものであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

二本件処分の理由たる違反事実について、被控訴人は、「控訴人は、前記交差点で左折するとき、右方の安全確認をしたのみで左方の安全確認をせずに発進し、かつ、道路の中央からはみ出て左折した過失により、対向の自動二輪車と衝突し、その運転者である小林政信及び同乗者である佐藤光男に傷害を負わせた。」旨主張し、控訴人は、被控訴人主張の左方の安全不確認及び中央はみ出しの過失はないと主張し、更に、「本件処分当時の処分理由は、左方の安全を確認しなかつたということだけで、中央はみ出しの点は被控訴人が本訴において処分理由として追加主張したものであり、かかる処分理由の追加は許されない。」旨主張する。

そこで、まず、控訴人主張の処分理由の追加云々の点について判断するに、本件に即して言えば、運転免許の効力停止処分は、免許を受けた者が自動車の運転に関し道路交通法に違反したときに、政令で定める基準に従いなされるものであり(同法一〇三条二項二号)、右の政令で定める基準は道路交通法施行令(昭和四二年政令二八〇号による改正前)三八条二号ハの規定である。すなわち、処分理由は特定の違反事実(道路交通法の違反行為をし、かつ、交通事故を起こして人を傷つけたこと。)である。そして、右処分の被処分者に対する通知に関しては道路交通法にも同法施行令にも規定がなく、同法施行規則三〇条は、「公安委員会は、免許を取り消し、又は免許の効力を停止したときは、当該処分を受けた者に別記様式第一九号の通知書により通知するものとする。」と規定している。成立に争いない乙第一八号証によれば、被控訴人は右様式の通知書をもつて控訴人に対し本件処分を通知しており、右通知書には、理由欄の「道路交通法第一〇三条第二項第二号の規定に該当。」のところにチェック印をつけ、その下に「(違反年月日昭和四二年七月二一日)事故」と記載されているが、道路交通法の何条に違反するか(一七条違反とか、七〇条違反とか)は記載されていないことが認められる。処分の通知については、道路交通法にも同法施行令にも規定がないのであるから、右通知書に記載すべき処分の理分の理由は、被処分者においていかなる違反事実について当該処分がなされたかを知りうる程度に記載すれば足りるものと解する。前記認定の通知書の記載は「道路交通法一〇三条二項二号の規定に該当する昭和四二年七月二一日の事故」というにあつて、これにより被処分者はいかなる違反事実について処分を受けたかを知ることができるから、右記載は違法ではない。

右のように、処分の理由は、「道路交通法違反の行為をし、交通事故を起こして人を傷つけた」という特定の違反事実であり、右の「道路交通法違反」の具体的内容について被処分者に告知することは法律によつて要求されておらず、被処分者に対する通知書の記載は前記のように簡単な記載で足りると解される点などから考えて、右の「道路交通法違反」とは、処分者或いは被処分者の処分当時における主観的認識の如何にかかわりなく、客観的に存在する同法違反を指すものと解すべきである。成立に争いない乙第二号証の一、二によれば、右は昭和四三年七日一九日付仙台南警察署長の宮城県警察本部長あての「行政処分の上申について」と題する文書であるが、これには違反内容として左方の安全確認違反の点だけが記載されていることが認められる。しかし、右記載は右警察署長の意見を示すにすぎないものであり、これをとらえて、本件処分における違反内容は左方安全確認違反だけであるということはできない。要は客観的にどんな違反があつたかということであつて、本件訴訟における被控訴人の違反内容に関する主張は、一個の処分理由(それは特定の違反事実である。)の中における違反内容の具体的明確化であつて、これを処分理由の追加と非難するのは当らないものであり、また、違反内容を追加主張したということもできない。そこで、結局、本件事故において控訴人の方に被控訴人主張の違反があつたかどうかが問題となるものであるから、次にこの点について判断する。《以下、省略。編集部注・事実認定の結果、「控訴人は、道路交通法一七条三項、七〇条に違反し、交通事故を起こして人を傷つけたものであるから、この事実は、同法一〇三条二項二号、同法施行令(前同改正前)三八条二号ハに該当するものであり、これを理由とする本件処分は何ら違法ではない」としている》

(松本晃平 石川良雄 小林隆夫)

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